麹を用いた「伝統的酒造り(日本酒・焼酎・泡盛等)」について【主に芋焼酎の由来】

今朝のニュースによると、政府がユネスコに再提案していた「伝統的酒造り」が、同機関の評価機関により「登録」勧告を受けたことが報じられました。これは、12月2日から7日にかけてパラグアイで開催予定の政府間委員会において、正式に決定される見通しです。

この「伝統的酒造り」は、麹菌を用いて日本酒、焼酎、泡盛といったお酒を造る日本独自の技術を指します。もし登録が実現すれば、2022年の「風流踊」以来、日本の無形文化遺産は23件目の登録となります。こうしたニュースを受け、今回は日本の伝統的な酒造り、特に私が好きな芋焼酎について紹介したいと思います。

そもそも麹とは?

「麹(こうじ)」は、日本の伝統的な酒造りや発酵食品に欠かせない存在です。日本の酒造りには「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三造り(さんつくり)」という格言があります。この格言は、日本酒や焼酎を造る工程での重要度を示しており、麹造りが最も重要なプロセスとされています。では、麹とは具体的に何なのでしょうか?

麹菌は、いわば「カビ」の一種であり、専門的には「コウジカビ」と呼ばれます。この菌は穀物に付着して繁殖し、デンプンを糖に変換する働きをします。この糖化の過程は、発酵に必要なエネルギーを生み出し、結果として酒や発酵食品の独特な風味を生むのです。日本酒、焼酎、泡盛といったお酒は、この麹を活用して造られており、特に焼酎作りにおいては独特の風味と豊かな味わいを提供します。

麹菌はカビの一種

「カビ」というと、多くの人はマイナスな印象を持ちがちですが、麹菌は善玉菌として捉えるべきものです。麹菌はデンプンを糖に分解し、発酵に必要なブドウ糖を生成します。この糖が酵母のエサとなり、発酵を進め、最終的にアルコールを作り出します。麹菌を利用した発酵食品には、納豆や醤油、味噌、鰹節といった日本の食文化を代表するものがありますが、日本酒や焼酎などの酒類は、麹を用いた酒造りとして世界的に非常に珍しいものです。

麹は健康に良い

麹にはアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼなど、約30種類以上の酵素が含まれています。これらの酵素は、ビタミン類を生成する働きがあり、腸内環境を整えることで、健康や美容面にも良い影響を与えます。特にオリゴ糖は腸内の善玉菌を増やし、腸の活動を活発にする効果があります。近年では、この健康効果が女性を中心に注目を集め、美容や健康の観点からも麹の価値が再評価されています。

焼酎作りにおける麹の役割

焼酎造りでの麹の役割は非常に重要です。お米や芋、麦など焼酎の原料の主成分であるデンプンを糖に変換し、酵母がアルコールを生成できるようにするのが主な役目です。また、麹が発生させるクエン酸は、醪(もろみ)を酸性に保つ役割を果たし、雑菌の繁殖を防いでいます。特に九州の高温多湿な環境では、このクエン酸が醪の腐敗を防ぐため、焼酎作りにおいてなくてはならない要素となっています。

種類とその特徴

麹には、黄麹、黒麹、白麹といった種類が存在し、焼酎の風味や特性を左右します。例えば、黒麹は力強い風味と酸味を持ち、気温が高い地域での発酵を安定させる特性があります。白麹は黒麹から派生したもので、よりマイルドな酸味と爽やかな香りを生み出します。これらの違いは焼酎の味わいに大きな影響を与え、各地域の酒造りの個性を形成しています。白〇〇や黒〇〇というブランドの焼酎がありますが、これは、麹の種類によって付けられた名称のようです。

芋焼酎の誕生秘話 ~薩摩藩 島津斉彬~

芋焼酎の歴史は、1851年に遡ります。当時、薩摩藩の第11代藩主である島津斉彬は、西欧列強に対抗するため、軍備の近代化を急務としていました。特に重要だったのは、雨天でも使用可能な雷汞(らいこう)を用いた銃の製造です。雷汞は高濃度アルコールの圧縮によって発火する仕組みを持ち、その製造には多量の工業用アルコールが必要とされました。

工業用アルコールと焼酎の関係

この工業用アルコールは、焼酎の蒸留工程の初期段階で得られる高濃度アルコールから抽出されました。斉彬は、焼酎を芋で造り、その製造過程から工業用アルコールを得ることを考案しました。余った焼酎は薩摩の特産品とするよう助言し、これが後に芋焼酎の産業化の端緒となりました。

斉彬の先見性:芋への原料転換

さらに斉彬の先見性は、米の使用を避け、芋を原料とした点に見られます。当時、米は庶民の主食であり、需要の増加は価格の高騰を招く恐れがありました。斉彬はこれを回避するために芋への転換を進め、経済面でも庶民を守りました。この決断は、後の芋焼酎ブームへとつながり、鹿児島の代表的な地場産業へと発展していきました。

芋焼酎の発展と現代の意義

150年以上が経ち、芋焼酎は日本全国で親しまれる酒となり、年間1000億円を超える産業へと成長しました。これは、戦後の産業復興を支えた造船、鉄鋼、繊維業と並び、地域経済を牽引する力を持つに至りました。

わたしの感想

こうじ菌を用いた伝統的酒造りは、日本の文化と技術が凝縮されたものです。その中でも、芋焼酎の歴史は、島津斉彬の先見性と時代のニーズが生んだ産業の一つであり、日本の発展と庶民の生活を支えた重要な要素です。この伝統技術がユネスコ無形文化遺産として登録されることは、その価値を再認識し、未来へ伝えていく一歩となるでしょう。